「急な異動を言い渡されたとき、すんなり受け止められる人と、何日も眠れなくなる人がいます」
これは、以前ある研修で出てきた言葉です。
同じ”変化”でも、それを糧にできる人と、立ち尽くしてしまう人がいる。その差は、何で決まるのでしょうか。
性格でしょうか。年齢でしょうか。それとも、生まれ持った才能のようなものでしょうか。
実は、キャリア支援の世界では、この差を 「アダプタビリティ(Adaptability)」 という考え方で整理しています。日本語にすれば、「変化への適応力」。
そして大事なのは、この力は生まれ持った才能ではなく、4つの要素から後天的に育つということです。
「変化に強い」とは、どういう状態なのか
前回ご紹介した プロティアン・キャリア の文脈でも、「変化に対応する力」は重要なテーマでした。
そして2000年代以降、キャリア心理学の中心人物のひとり マーク・サビカス が、この力を理論的に整理しました。それが 「キャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability)」 という概念です。
サビカスは、変化に対応できる人が共通して持っている力を、4つの「C」で表現しました。
Concern(関心) / Control(統制) / Curiosity(好奇心) / Confidence(自信)
ひとつずつ見ていきます。
4つの C ── あなたはどれを持っていますか?
① Concern:自分の未来に「関心」を持っている
「これから先、自分はどうなりたいのか」「どんな働き方をしていたいのか」
そういう未来への関心を、薄くでも持ち続けている状態のことです。
未来に関心がある人は、変化を「他人事」にしません。たとえ会社の都合で動かされる場面でも、「これは自分の未来とどうつながるか?」を考えられる。だから、変化を自分の流れに組み込んでいけます。
逆に、関心が薄いと、変化が起きるたびに「困った」「迷惑だ」と立ち止まってしまいます。
② Control:自分にも「決められる」と思えている
完全にコントロールできなくても、「全部は無理でも、ここは自分で決められる」という感覚を持っているかどうか。
これは、自分の人生の 当事者意識 に近い感覚です。
会社の方針、家族の状況、社会の変化。多くのことは自分では決められません。それでも「次の一手は自分が決める」と思えている人は、変化の中でも動けます。
③ Curiosity:「新しいこと」に好奇心を向けられる
これがプロティアン・キャリアと最も親和性が高い力かもしれません。
知らない部署、新しいツール、慣れない仕事。それらに対して「面倒だ」ではなく「ちょっと見てみるか」と思える好奇心。
小さな興味を持てる人は、変化を学習機会に変えられます。
④ Confidence:「やれば、なんとかなる」という自信
ここでいう自信は、「絶対できる」ではなく、「やってみれば、なんとかなる」 という程度のものです。
これは過去の小さな成功体験から、ゆっくりと育つもの。「あのとき、はじめは怖かったけど、やってみたらできた」という記憶が、次の挑戦の支えになります。
この力は、後から育つ
4つの C は、生まれつきの性格ではありません。
サビカス自身、これを「心理社会的資源(psychosocial resources)」と呼びました。つまり、経験を通じて蓄えていくことのできる、心の資産 です。
たとえば──
- 関心が薄いと感じるなら、月に一度「半年後の自分はどうしたい?」と書き出してみる
- 統制感が乏しいと感じるなら、毎日小さなことをひとつだけ「自分で決めて」みる
- 好奇心が落ちていると感じるなら、興味のない分野の本を1冊だけ手に取ってみる
- 自信が出ないと感じるなら、過去にやり切ったことを3つ書き出してみる
どれも、たいしたことではありません。けれども、こうした小さな積み重ねが、変化の場面であなたを支えてくれます。
「変化した経験」が、最大の資源になる
私がインタビューで何度か話してきたことのひとつに、「成長の鍵は、変化した経験にある」 という言葉があります。
異動、転職、結婚、出産、介護、引っ越し、病気、誰かとの別れ。 私たちは、たくさんの変化をくぐり抜けてきました。
そのとき感じた戸惑い、悔しさ、安堵、開放感。それらすべてが、4つの C を育てる栄養になっています。
「変化が多すぎた」と感じている方ほど、実はアダプタビリティを育てる土壌は豊かだということ。それを、ぜひ覚えておいてほしいと思います。
あなたの C は、どれが強くて、どれが弱い?
4つの C を見ながら、ご自分を振り返ってみてください。
- 関心は、ある?
- 統制感は、ある?
- 好奇心は、ある?
- 自信は、ある?
どれかひとつ強ければ、それがあなたの軸になります。 どれかひとつ弱ければ、それが次に育てるテーマになります。
完璧に揃っている人は、いません。 でも、4つの C のどこかは、誰の中にも必ずあります。
それを知っていることが、次の変化を「迎え撃つ準備」になります。