キャリア教育

「好きなものゲーム」で、自分の価値観を発掘する

前回の記事 で、こんな問いかけをしました。

自分の価値観を、自分の言葉で語れる状態を作る。

そう聞いて、「いや、その”自分の価値観”が分からないから困ってるんだよ」と感じた方も多いかもしれません。

価値観という言葉は抽象的で、書き出そうとしても手が止まってしまうことがあります。

今回は、頭で考えるのをやめて、手を動かしながら自分の価値観を発掘する ワークをご紹介します。

私が、小学生から大人まで、いろいろな場で使っているワークです。

その名も──「好きなものゲーム」


ルールはたったひとつ。「なぜ好き?」を繰り返す

ワークの進め方は、シンプルです。

  1. 司会が「犬と猫、どっちが好き?」と問いかける
  2. 参加者は犬派・猫派に分かれる
  3. それぞれの「どこが好きなの?」と聞く
  4. さらに「なぜ好きなの?」と質問を重ねていく

たったこれだけ。けれども、ここで起きていることは、思っている以上にたくさんあります。


例えば、犬派と猫派

実際にやってみると、こんな声が上がります。

犬派の人の声:

  • 「賢くて、かわいい」
  • 「散歩で外を一緒に歩けるのがいい」
  • 「公園でボールを投げて遊んでくれる」
  • 「いつも全力で喜んでくれる」

猫派の人の声:

  • 「見ているだけで癒される」
  • 「あのクールな見た目がいい」
  • 「ツンデレ、なのにとてもなついてくれる」
  • 「自分の生活ペースを邪魔されない」

同じ「動物が好き」でも、好きな理由はまったく違います。

そして、自分の声に耳を澄ましてみると、「あ、私はこういうのが好きなんだ」と、ぼんやり自覚していたものの輪郭が、少しだけ濃くなります。


季節でやってみると、もっと多様に

次の問いは、こうです。

春・夏・秋・冬、どれが好き?

これがまた、思いがけず多彩な答えが返ってきます。

  • 「春。花が好きだから」
  • 「夏は嫌い。虫がだめ」
  • 「秋。読書と食べ物の季節」
  • 「冬。寒いのが苦手だけど、自分の誕生日がある月だから愛着がある」
  • 「春。名前に春の字が入っているから、ずっと好きだと思ってきた」
  • 「夏。花粉症の春が終わってホッとできる」

「好きな理由」も「嫌いな理由」も、入り混じります。 そして、その理由はびっくりするくらい、人それぞれです。


「なぜ?」を問うことが、内省そのもの

このワークで起きている本当のことを言葉にすると、こうなります。

「なぜ好きなのか?」を探そうとする行為そのものが、内省を深めている瞬間 なんです。

普段、私たちは「好き」「嫌い」を直感で感じています。それで日常は回るので、わざわざ理由を言語化することは多くありません。

でもこのワークでは、その直感に、ほんの少しだけ「なぜ?」を向けます。

すると、

  • それは、過去のあの体験と繋がっていたのか
  • それは、自分があの人といたいからだったのか
  • それは、自分が「こうありたい」と思っていることの表れだったのか

──そんな”気づき”が湧いてきます。

直感的な「好き」の奥には、必ずあなたの 価値観の手がかり が眠っています。 それを地表に引き上げる作業が、このワークなのです。


アイデンティティとは、「自分はこうだ」と語れる状態

私がこのワークを大事にしている理由は、もう一つあります。

それは、アイデンティティとは、価値観を「知る」だけでなく、「自分はこうだ」と語れる状態 だと考えているからです。

頭の中に「私はこういう価値観を持っている」とぼんやりあるだけでは、まだアイデンティティとは呼べません。

それを、

  • 自分の言葉で、
  • 他者に向けて、
  • ちゃんと語れる

──そこまでいって初めて、アイデンティティは輪郭を持ちます。

「好きなものゲーム」は、その「語れる状態」までの第一歩なんです。

直感(好き)→ 理由(なぜ)→ 言葉(語る)。 この変換を、楽しみながら何度もやることで、自分の輪郭が少しずつ濃くなっていきます。


「好きなもの」を、理由まで含めて語れますか?

ここまで「好きなものゲーム」というワークの形でお伝えしてきましたが、本当にお伝えしたいのは、ゲームのやり方ではありません。

大切なのは、自分の好きなものを、理由まで含めて、自分の言葉で語れるということです。

「犬が好きです」と言えるのは、まだ入り口。

「私は犬が好きです。賢くてかわいいだけじゃなく、いつも全力で喜んでくれる姿に、自分も励まされるからです」

──そこまで語れたとき、初めてその言葉の中に、あなたという人の輪郭が現れます。


それが、アイデンティティの原点であり、自己理解の入口です

「自分のことが分からない」「強みを言葉にできない」と話される方は、本当にたくさんいらっしゃいます。

ですが、ご自身の “好きなもの” について、理由まで含めて30秒だけ話してもらうと、不思議とすらすらと言葉が出てくるものです。

そして、その語りの中に、その方の 価値観の核 が、はっきりと現れます。

「好きなものを、理由を含めて語れる」ということは、

  • 自分の感覚を、ちゃんと自覚していて、
  • それを言葉に変換でき、
  • 他者に向けて伝えられる

という状態のこと。

これはまさに、アイデンティティの原点であり、自己理解の入口 です。


キャリアは、「自分を語れる人」から動き出す

キャリア面談、転職活動、評価面接、はじめての顧客との会話、新しい人との出会い。

私たちは折に触れて、「自分とは、どういう人間か」を、誰かに伝える場面に立たされます。

そのときに頼りになるのは、診断ツールの結果でも、肩書きや実績の羅列でもありません。

自分の “好き” を、理由を含めて、自分の言葉で語れる力

──それが、キャリアのあらゆる場面で、あなたを支えてくれます。

その力は、特別な訓練で身につくものではありません。

「私はこれが好き。なぜなら……」を、日常の中で何度も自分に問い、誰かに話してみる。 その積み重ねの中で、少しずつ育っていきます。

好きなものを、好きだと、ちゃんと語ること。 それはキャリアにおいても、想像以上に大きな力を持っています。

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