前回の記事 で、こんな問いかけをしました。
自分の価値観を、自分の言葉で語れる状態を作る。
そう聞いて、「いや、その”自分の価値観”が分からないから困ってるんだよ」と感じた方も多いかもしれません。
価値観という言葉は抽象的で、書き出そうとしても手が止まってしまうことがあります。
今回は、頭で考えるのをやめて、手を動かしながら自分の価値観を発掘する ワークをご紹介します。
私が、小学生から大人まで、いろいろな場で使っているワークです。
その名も──「好きなものゲーム」。
ルールはたったひとつ。「なぜ好き?」を繰り返す
ワークの進め方は、シンプルです。
- 司会が「犬と猫、どっちが好き?」と問いかける
- 参加者は犬派・猫派に分かれる
- それぞれの「どこが好きなの?」と聞く
- さらに「なぜ好きなの?」と質問を重ねていく
たったこれだけ。けれども、ここで起きていることは、思っている以上にたくさんあります。
例えば、犬派と猫派
実際にやってみると、こんな声が上がります。
犬派の人の声:
- 「賢くて、かわいい」
- 「散歩で外を一緒に歩けるのがいい」
- 「公園でボールを投げて遊んでくれる」
- 「いつも全力で喜んでくれる」
猫派の人の声:
- 「見ているだけで癒される」
- 「あのクールな見た目がいい」
- 「ツンデレ、なのにとてもなついてくれる」
- 「自分の生活ペースを邪魔されない」
同じ「動物が好き」でも、好きな理由はまったく違います。
そして、自分の声に耳を澄ましてみると、「あ、私はこういうのが好きなんだ」と、ぼんやり自覚していたものの輪郭が、少しだけ濃くなります。
季節でやってみると、もっと多様に
次の問いは、こうです。
春・夏・秋・冬、どれが好き?
これがまた、思いがけず多彩な答えが返ってきます。
- 「春。花が好きだから」
- 「夏は嫌い。虫がだめ」
- 「秋。読書と食べ物の季節」
- 「冬。寒いのが苦手だけど、自分の誕生日がある月だから愛着がある」
- 「春。名前に春の字が入っているから、ずっと好きだと思ってきた」
- 「夏。花粉症の春が終わってホッとできる」
「好きな理由」も「嫌いな理由」も、入り混じります。 そして、その理由はびっくりするくらい、人それぞれです。
「なぜ?」を問うことが、内省そのもの
このワークで起きている本当のことを言葉にすると、こうなります。
「なぜ好きなのか?」を探そうとする行為そのものが、内省を深めている瞬間 なんです。
普段、私たちは「好き」「嫌い」を直感で感じています。それで日常は回るので、わざわざ理由を言語化することは多くありません。
でもこのワークでは、その直感に、ほんの少しだけ「なぜ?」を向けます。
すると、
- それは、過去のあの体験と繋がっていたのか
- それは、自分があの人といたいからだったのか
- それは、自分が「こうありたい」と思っていることの表れだったのか
──そんな”気づき”が湧いてきます。
直感的な「好き」の奥には、必ずあなたの 価値観の手がかり が眠っています。 それを地表に引き上げる作業が、このワークなのです。
アイデンティティとは、「自分はこうだ」と語れる状態
私がこのワークを大事にしている理由は、もう一つあります。
それは、アイデンティティとは、価値観を「知る」だけでなく、「自分はこうだ」と語れる状態 だと考えているからです。
頭の中に「私はこういう価値観を持っている」とぼんやりあるだけでは、まだアイデンティティとは呼べません。
それを、
- 自分の言葉で、
- 他者に向けて、
- ちゃんと語れる
──そこまでいって初めて、アイデンティティは輪郭を持ちます。
「好きなものゲーム」は、その「語れる状態」までの第一歩なんです。
直感(好き)→ 理由(なぜ)→ 言葉(語る)。 この変換を、楽しみながら何度もやることで、自分の輪郭が少しずつ濃くなっていきます。
「好きなもの」を、理由まで含めて語れますか?
ここまで「好きなものゲーム」というワークの形でお伝えしてきましたが、本当にお伝えしたいのは、ゲームのやり方ではありません。
大切なのは、自分の好きなものを、理由まで含めて、自分の言葉で語れるということです。
「犬が好きです」と言えるのは、まだ入り口。
「私は犬が好きです。賢くてかわいいだけじゃなく、いつも全力で喜んでくれる姿に、自分も励まされるからです」
──そこまで語れたとき、初めてその言葉の中に、あなたという人の輪郭が現れます。
それが、アイデンティティの原点であり、自己理解の入口です
「自分のことが分からない」「強みを言葉にできない」と話される方は、本当にたくさんいらっしゃいます。
ですが、ご自身の “好きなもの” について、理由まで含めて30秒だけ話してもらうと、不思議とすらすらと言葉が出てくるものです。
そして、その語りの中に、その方の 価値観の核 が、はっきりと現れます。
「好きなものを、理由を含めて語れる」ということは、
- 自分の感覚を、ちゃんと自覚していて、
- それを言葉に変換でき、
- 他者に向けて伝えられる
という状態のこと。
これはまさに、アイデンティティの原点であり、自己理解の入口 です。
キャリアは、「自分を語れる人」から動き出す
キャリア面談、転職活動、評価面接、はじめての顧客との会話、新しい人との出会い。
私たちは折に触れて、「自分とは、どういう人間か」を、誰かに伝える場面に立たされます。
そのときに頼りになるのは、診断ツールの結果でも、肩書きや実績の羅列でもありません。
自分の “好き” を、理由を含めて、自分の言葉で語れる力
──それが、キャリアのあらゆる場面で、あなたを支えてくれます。
その力は、特別な訓練で身につくものではありません。
「私はこれが好き。なぜなら……」を、日常の中で何度も自分に問い、誰かに話してみる。 その積み重ねの中で、少しずつ育っていきます。
好きなものを、好きだと、ちゃんと語ること。 それはキャリアにおいても、想像以上に大きな力を持っています。