「会社の方針が、また変わったらしい」 「上司が代わって、評価のされ方が変わった」 「同期がキラキラして見えて、自分が遅れているように感じる」
そんなニュースや出来事のたびに、心がざわついたことはないでしょうか。
仕事は同じはずなのに、まわりの動きひとつで急に自分の立ち位置が分からなくなる。そして気づけば、誰かの基準で自分を測っている。
その正体について、今日は少しだけ立ち止まって考えてみたいと思います。
あなたが揺れるのは、「他人の地図」を生きているからかもしれない
前回ご紹介した アダプタビリティの中に、「Control(統制感)」という言葉がありました。
「自分にも、決められる」と思えている感覚です。
その感覚が薄くなる場面というのは、たいてい、自分の中の地図ではなく、誰かの地図 を見て歩いている時です。
会社の評価基準。世間の「成功した人」像。SNSでよく見るキラキラした働き方。
それらはどれも、誰かが描いた地図です。
その地図を信じて歩いている限り、地図を持っている人(会社、世間、誰か)の都合で、自分の立ち位置が決まってしまいます。
プロティアン・キャリアの、もう一つの中核
ここで、プロティアン・キャリアの話に戻ります。
第1回 でお伝えしたように、プロティアン・キャリアは「自分が舵を握る」というキャリア観です。
そのプロティアンには、もう一つの重要な特徴があります。それが 「価値観中心(value-driven)」 という考え方です。
提唱者のホールは、こう言いました。
キャリアの主導権を握るためには、その判断の基準を「自分の価値観」に置く必要がある。
会社が用意した評価基準ではなく、世間の「正解」でもなく、自分の中にある 「これは大事にしたい」 という感覚を、判断の中心に据える。
それが、揺れない自分を作る土台になります。
「価値観」って、何のこと?
「価値観って言われても、自分が何を大事にしているのか、よく分からない」
そう感じる方も多いと思います。それは、特別なことではありません。むしろ、ここまで会社や周囲の期待に応えて頑張ってきた人ほど、自分の価値観が見えづらくなっているものです。
価値観とは、難しい言葉ではありません。
- どんな瞬間に、心が動くか
- どんな場面で、嬉しくなるか
- どんな状況に、許せないと感じるか
- どんな働き方をしている人を、いいなと思うか
そういう、ささやかな”反応”の中に、あなたの価値観の輪郭は、すでに表れています。
「成功」も、自分で定義していい
プロティアン・キャリアでは、成功の定義そのものを、自分で持ち直すことを大事にします。
ホールはこれを 「心理的成功(psychological success)」 と呼びました。
会社の評価、年収、役職、肩書き。それらは”外側からの成功”です。
それに対して、「自分にとっての、納得感のある成功」 を自分で定義する。
たとえば、
- 「家族と夕食を取れる毎日」
- 「自分のペースで創造的に働けている感覚」
- 「困っている人の役に立てた、という実感」
- 「自分の言葉で、自分の仕事を語れる状態」
どれも、誰かに渡された成功ではありません。 あなたの中にある成功の形です。
価値観は、変わっていい
ここでひとつ、大事なことをお伝えしておきます。
価値観は、固定されたものではありません。
20代に大事だったものと、30代で大事になるもの、40代で見えてくるものは違います。子どもが生まれたり、親の介護が始まったり、大切な人と別れたり。人生のフェーズで、価値観の重心は移り変わっていきます。
「ぶれない軸を持て」と言われると、つい「一生変わらない何か」を探したくなりますが、そうではありません。
プロティアン・キャリアにおける軸とは、今この瞬間、自分が何を大事にしているかを、自分の言葉で語れる状態 のことです。
去年と違っていてもいい。来年また変わってもいい。
ただ、今の自分の軸を、自分が知っている。それが、揺れない土台になります。
「自分の言葉で、語れる状態」を作る
キャリア理論を中心にお伝えしている前回、前々回で、
- プランを手放してもいい(「キャリアプラン通り」を、手放してもいいかもしれない)
- 変化に強くなる4つのC(変化に強い人は、何を持っているのか ──アダプタビリティの正体)
- 自分の価値観を、判断の中心に置く(本内容)
という話をしてきました。
そして次は、「では、自分の価値観をどう発見するか」という、もっと手触りのある話に入っていきます。
ここから先は、頭で理解する話ではなく、手を動かして自分と向き合う話です。
今夜、寝る前にひとつだけ、自分にこう問いかけてみてください。
「今日、心が動いた瞬間は、いつだった?」
その答えの中に、あなたの価値観の、たしかな輪郭が現れているはずです。